01 候補地探しから、手探りのスタート
大月真珠のインドネシア現地法人では、真珠を養殖する漁場を複数運営しています。また、既存の漁場の運営だけでなく、生産量の拡大・品質向上を目的として、新たな漁場の開拓も継続的に行っています。インドネシアの養殖部門のある社員は、入社3年目よりこの新漁場の開拓に携わることになりました。
02 文化・価値観が全く異なる地域で
今回新たに開拓したのは、当社の既存の漁場のあるクパンという街から飛行機、車、船を半日以上乗り継いでようやくたどり着く場所にあります。当時はまだ電気やガスが通っておらず、メディアはもちろん、小銭以外の通貨も流通していなかったこの地域で、現地の方々とコミュニケーションを図り、少しずつ漁場を構築していきました。
クパンの人たちもためらうほど距離的にも遠く、またある意味で近代文明から切り離されたような場所ですから、こちらの常識があてはまらないことも多々ありました。まずは村長など、しかるべきポジションの方から順を追って漁場を開きたいこと、そのために協力してほしいことを伝えていきましたが、ある人に許可をとっても、別の人からクレームを受けたり、村落の境界線を巡って食い違いが生じたりすることもありました。また、それまで目立った産業が村になかったため、住民の方の中には日中からお酒を飲んだり、時間を守るという概念が無い方もいました。まずは労働の対価としてお金を支払うこと、そのためには一定のルールを守っていただくことを粘り強く説明していきました。
最初にコンタクトを図ってから約2か月ほどで、住民の方々の同意が得られました。従業員の確保、設備の準備と建設、稚貝の飼育と順を追って漁場建設プロジェクトを進めていきましたが、養殖が成功し、漁場が軌道に乗るまでには、長い年月を要します。
まずは肝心の従業員集めですが、これもいきなり募集するのではなく村長などのポジションの方に推薦をお願いして集めます。10名ぐらい集まったスタッフで、貝を海中に吊るすための設備を海上に設置し、稚貝を少し飼育してみて、この海・環境に合うのかを確認します。飼育・経過観察を行ったのち、「少なくとも貝を育てることはできる」ことがわかるまで半年ほど、そこから最終的に真珠がとれるようになるまでは、トータルで3年ほどかかりました。
03 地域に産業をつくり、発展に貢献するやりがい
当初約10名のスタッフでスタートしたこの漁場では、今や50名のスタッフを抱えるまでに規模を拡大しています。この漁場のスタッフは、業務に慣れたスタッフを外部から呼び寄せたのではなく、全て現地の方々を採用しています。その地域の人々を採用し、育成することは雇用の安定、更には地域経済の発展という意味で、その地域に大きく貢献することにつながると考えています。
私たちが開いた漁場は、村で初めての産業になりました。漁場から収入を得ることで、村の生活が着実に豊かになっていく様子を間近に見られたことは、貴重な経験です。稼いだお金で村外の学校に子どもを通わせるようになった人もいますし、島に貨幣が流通するようになったことで市が立つようにもなりました。何より、それまで目立った仕事をすることのなかった人たちが、漁場ができて以来規則正しい生活をするようになったことを深く感謝されたときは、とても感慨深かったですね。
現在は別の漁場運営に携わりながら、充実した日々を過ごしていますが若さやエネルギーを武器に新漁場をつくった経験は、彼の人生観、仕事に対する考え方を大きく変えました。
この仕事について、「美しい海に囲まれてのびのびとできる」イメージを持たれるかもしれません。そういう側面があることも確かですが、私たちは現地では「異物」とみなされることもある立場です。誰に、どうみられているのか、常に周囲を観察しながら、その都度正しく振る舞わなくては、現地で信頼を得ることはできません。また、現地では想定通りに物事が進むことはほとんどありません。不測の事態が起こってもまずは焦らず正しく状況を判断すること、そしてコミュニティにおける人間関係・利害関係などを想像しながら立ちまわること。こうした経験を繰り返すことで少々のことでは動じなくなったように思いますし、今後の仕事でも色々な場面でいきてくると思います。
私たちインドネシアで働く社員は、普段の業務の中でも、真珠の養殖に適した場所がないか、常にアンテナを張っています。気になる場所があれば地図アプリを使って地形をみたり、海図で海底の様子を探ったり。また大きな川が近くにあると、雨期にそこから濁流が海に流れ込んで貝を直撃しますし、筏から貝を吊るすことを考えれば、ある程度の水深も必要です。条件の良い場所が見つかれば、釣りを兼ねて漁場調査に出かけて、魚群探知機で水深を測ったりしています。
こうした自然環境以外にも、地域住民の情報を集めることも重要です。漁場を開けば多くの従業員が必要ですから、そのなり手がいるような村が近くにあるのか、あるいは日本の企業に対して排他的な考えを持った人が多くないかなど、近隣の村、コミュニティの様子をしっかりつかまなければなりません。こうした調査業務は、外部企業に依頼するケースが多いようですが当社では調査・交渉段階から自分たちで行っています。ゼロからスタートして、手探りで漁場を開拓する仕事は、大変でもありますがそこに仕事の魅力も感じています。