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真珠養殖の匠

毎年、初夏の暖かさを感じる5月ごろになると、三重県の英虞湾にある大月真珠の賢島養殖場では、新しい真珠を生み出すための挿核手術(珠入れ)が始まる。

挿核手術の指導

兵庫運河真珠貝プロジェクトで子どもたちに挿核の技術指導をする井窪

普段は本社(神戸)の加工部に在籍している井窪新治にとっては、特別な季節の到来でもある。5月から8月にかけての約4ヶ月間、彼は新しい宝石を生み出すための魔法の右手を持つ男に変身する。挿核仲間から「井窪ワールド」と呼ばれる独特の世界。貝の表情を読み取り、挿核に適した貝を瞬時に判別、さらに貝に合わせて的確に核のサイズをチョイスする。これが、井窪の匠の技だ。それは、大月真珠の養殖場の中でも、貝の生存率が常にトップクラスという数字となって表れている。

「もともと海が好きで、真珠会社に入った以上は、製品を扱うだけではなく、真珠を作る原点にも携わりたいと思っていた」と話す井窪。最近では、「兵庫運河真珠貝プロジェクト」(環境保全活動の一環として神戸の地元小学生とその保護者がアコヤ貝の育成に取り組んでいる)の場で、井窪は参加している小学生に挿核技術を指導、真珠養殖の難しさとともに、真珠を生み出す楽しさと喜びを子供たちに伝えている。

○ 養殖真珠について ○

1893年に御木本幸吉が半円アコヤ真珠の養殖に成功したことで、始まった養殖真珠の歴史。それまでの天然真珠は、核の代わりとなる砂などの異物が貝の胎内に偶然入ることで真珠層が形成されていたが、形が小さく、変形したものがほとんどで、しかも万にひとつと言われるほど、滅多に採れるものではなかった。

天然真珠と養殖真珠は、偶然、貝の胎内に異物が入ったか、人工的に核を入れているかの違いだけで、真珠層などの構造的な違いはまったくない。どちらも海と貝の自然の力によって育まれた美の結晶である。


○ 養殖のプロセス ○

稚貝育成 天然採苗と呼ばれる杉葉などを海中につけて自然に稚貝を付着させる方法と、人工採苗と呼ばれる貝を人工受精させて育成する方法の2種類がある。現在では、量の確保が容易で、真珠の育成に優れた貝を確保することができるため、人工採苗による稚貝育成が主流となっている。稚貝は一定のサイズになるまで大型水槽で育成する。
挿核をおこなうための母貝用の稚貝と、真珠の色を決めると言われるピースを取るための細胞貝用の稚貝は、それぞれの特性に応じた貝を別々に採苗している。

稚貝育成


母貝育成 貝がある程度成長すると、育成用のネットに入れ、水槽から海に移動し、自然界の植物プランクトンを摂取させる。そのネットも成長の度合いによって大きさを換えなければならない。
海には多種多様な生物が存在し、時にそれらが母貝の成長を妨げる。母貝にカキやフジツボといった他の生物が付着し、プランクトンを捕食してしまうため、母貝の摂取できるプランクトンの量が減ってしまう。そのため、これらの貝の付着物を取り除くために定期的な貝掃除が必要となる。

母貝育成


挿核準備 母貝をネットから抑制カゴに移し、静かな状態で育成し貝の活動を弱める。いわば、貝を麻酔にかけたような状態することで、挿核手術時のショックを和らげている。
挿核時、生殖層に卵(卵子・精子両方を指す)が残っていると真珠の色に影響が出てしまう。その悪い要因を抑える工程として、貝の動きをある程度停止させて卵の発育を抑える卵止めや排卵を促進させる卵抜きなどをおこなっている。以上の工程は仕立て作業と呼ばれている。

挿核準備


挿核手術 仕立てを終えた貝に、ピース(外套膜から切り出された細胞)と核(真珠層と構造を一にするアメリカ・ミシシッピー川産の淡水二枚貝の貝殻から削りだした円形のもの)を挿入する。貝の内臓などを傷つけないように手術する必要があり、養殖工程のうちで最も繊細な技術と細心の注意が必要とされる。
挿核を終えた貝は玄貝(くろがい)と呼ばれる。

挿核手術


養生・真珠育成 玄貝を養生カゴに入れ、挿核手術の傷が癒えるまで一定期間、養生させる。
養生期間を経て十分に体力が回復した貝は、エサの多くある沖に出され、本格的に真珠の育成に集中させる。水温管理や塩分濃度などの海中の環境管理も重要。この期間も付着物の掃除は欠かさない。貝にストレスを与えないように、すばやく掃除をおこなう必要がある。

養生・真珠育成


採珠(浜揚げ) 貝を海から揚げ、真珠を採り出す作業。浜揚げは、海水温の低下によって真珠層の形成がきめ細かくなり、「テリ」と呼ばれる光沢が出てくる初冬に行われるのが一般的である。この採取の時期を決めるのも技術の一つといえる。日本特有の四季の変化が良質な真珠を生み出すための重要な要素になっている。美しい真珠が誕生する瞬間であるこの浜揚げは、養殖工程のまさに集大成である。

採珠(浜揚げ)




(次は、用途別選別の匠です)

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